遺産分割協議

相続が発生した場合、遺言書がなければ相続人同士で遺産分割について話し合いをし、遺産分割協議書を作成します。
もっとも、遺産に不動産がない場合や相続税申告をしない場合には遺産分割協議書が必要になる場面もなく、わざわざ書面を作成しない場合も少なくありません。
しかし、後々、勘違いや事情の変更を理由に遺産分割について蒸し返され争いが生じることがあります。そのような紛争を防止するためにも遺産分割協議書はしっかりと作成しておく必要があります。

遺産分割協議の手続きと流れ

1 相続人の範囲の確定
2 遺産の内容(範囲・評価額)の確定
3 全相続人間での話し合い
4 法定相続分の確定
5 特別受益・寄与分
6 具体的な遺産分割方法の決定
7 遺産分割協議書の作成
8 相続財産名義変更・登記手続など

当事務所に遺産分割協議書の作成依頼された場合、相続人の範囲確定のための戸籍の収集、遺産分割協議書の作成を行います(戸籍の取得費用は別途いただきます)。
以下、ご自身で遺産分割協議を作成する場合の一連の流れについて、説明致します。

1.相続人の範囲の確定

遺産分割協議書の作成は全相続人の合意が必要となります。
被相続の前妻(前夫)との間に子がいればその子も相続人となります。また、婚外子であっても認知していれば相続人となります。さらには養子縁組をしている場合養子も相続人となります。
そこで、相続人全員を明らかにするため、被相続人が生まれてから死亡に至るまでの戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本を取得する必要があります。

相続人を欠いて遺産分割協議書を作成しても、そこに記載された遺産分割事項は無効となります。逆に、相続人でない者を協議に参加させて協議書に署名押印させた場合もやはり無効となります。そのため、相続人の範囲の確定作業は面倒ではありますが、決しておろそかにはできません。

なお、相続人がすでに死亡しその子に代襲相続が生じている場合や兄弟姉妹が相続人になる場合などでは、何通もの戸籍謄本などを取得しなければならないこともあります。

2.遺産の内容(範囲・評価額)の確定

遺産分割の対象となる遺産とは、相続開始時に存在し、かつ、分割時にも存在する、未分割の遺産です。

ア)不動産
イ)借地権、建物賃借権
ウ)預貯金
エ)現金
オ)有価証券(株式、国債、社債、投資信託など)
カ)無体財産権(著作権、特許権、商標権など)
キ)動産(貴金属、美術品、骨董品)

上記のうち、預貯金は法律上可分債権とされ相続の開始とともに当然に分割されて法定相続分に応じて各相続人に帰属すると考えられているため、法律上は遺産分割協議は不要となります。しかし、銀行などの金融機関で預金の払い戻しを受けるには、窓口で遺産分割協議書や銀行所定の様式による相続人全員の実印の押印がある届出書の提出を求められるため、実際にも遺産分割協議の対象とするのが通常でしょう。

上記はプラスの財産でしたが、マイナスの財産すなわち借金である金銭債務(借金、保証債務など)は遺産分割協議の対象とはなりません。債務は各相続人へその法定相続分にしたがって引き継がれます。そのため、遺産分割協議で遺産をもらわないと決めても借金を引き継がないことにはならないため注意が必要です。

3.全相続人での話合い

遺産の分割については当事者の合意が優先されます。後述のとおり、民法では法定相続分という規定があり、各相続人が相続できる割合が決められていますが、これはあくまで任意規定であって相続人全員で法定相続分と異なる遺産分割を決めることが可能です。たとえば、特定の相続人にすべての遺産を集中させたり、特定の相続人は一切相続をしないという協議も可能です。
もっとも、当事者間で話をするにあたっては法定相続分を基準に話し合いをすることが多いと思われます。
なお、相続人の中に未成年者がいる場合、未成年者は遺産分割協議に参加することはできません。また、痴呆症などで正常な判断が難しい人も協議に参加することは避けるべきです。未成年者がいる場合には家庭裁判所に対して未成年のための特別代理人の申立を行い、痴呆症の方がいる場合には同様に成年後見人が選任申立を行い、未成年者のの特別代理人、痴呆症の方の成年後見人が遺産分割協議の話し合いに参加し、本人に代わり署名押印することになります。

4.法定相続分の確定

相続人が2名以上いる場合、各相続人の相続分は民法により定められています。

配偶者、及び子(または、直系尊属、兄弟姉妹)がともに相続人になるときの相続分は次のとおりです。

法定相続人 法定相続分
配偶者・子 配偶者、子が2分の1ずつ
配偶者、直系尊属 配偶者3分の2・直系尊属3分の1
配偶者、兄弟姉妹 配偶者4分の3・兄弟姉妹4分の1

相続人である子(または、直系尊属、兄弟姉妹)が2人以上いるときは、それぞれの法定相続分は同じです。たとえば、配偶者と子2人が法定相続人ならば、法定相続分は配偶者が2分の1、子がそれぞれ4分の1ずつとなります。
ただし、被相続人の兄弟姉妹が相続人である場合、被相続人と父母のいずれかが異なる兄弟姉妹(半血兄弟)の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の半分とされています(民法)。

相続人がすでに死亡しその子に代襲相続が生じている場合、代襲相続人は被代襲者の相続分をそのまま引き継ぎます。たとえば、被代襲者(相続分は2分の1)の、2人の子たちが代襲相続人であったならば、それぞれの相続分は遺産全体の4分の1ずつとなります。

5.特別受益・寄与分

各相続人の法定相続分を修正するものとして、寄与分、特別受益があります。
この特別受益・寄与分のいずれも法的相続分の規定と同様任意規定ですので、相続人全員の合意があれば、特別受益・寄与分を一切考慮しないとか、法律で規定される額より増減して各相続人の相続分に反映させることは可能です。

・寄与分

寄与分とは、被相続人の財産の維持または増加について、特別の貢献をした人に対し、本来の法定相続分を超える相続分を与えようとするものです。
寄与分が認められるのは、『被相続人の事業に関する労務の提供または財産上の給付』、『被相続人の療養看護』、その他の方法により、『被相続人の財産の維持または増加』について特別の寄与をした場合に限られるとされています。
この寄与分に関しては、被相続人への介護を寄与分としてみることができるかが争われることが多々あります。家庭裁判所の裁判例では、介護のための費用を立て替えたり、介護のための実費を負担したりした場合には、被相続人の財産の減少を防止したとして寄与分としてみることは認めていますが、介護行為(労働)自体を金銭評価して寄与分とすることは認めていません。

・特別受益

特別受益とは、被相続人から、『遺贈、婚姻や養子縁組のための生前贈与、生計の資本としての生前贈与』を受けたことをいいます。
特別受益があった場合、「相続財産に特別受益に該当する贈与の価額を加算したもの」を相続財産とみなし、特別受益を受けた相続人の相続分からは、その贈与の価額分を差し引きます。いいかえると、相続財産を先にもらったものとして、遺産分割協議において先にもらった分を調整して相続分額を決めることになります。

6.具体的な遺産分割方法の決定

法定相続分は相続割合を規定するだけですし、特別受益・寄与分も金銭的に調整をするだけで、実際に存在する個々の財産をどう分割するかについては規定していません。あくまで、遺産分割時における遺産の評価額により各人の取得分額を確定させることに留まります。
現実の遺産は簡単に金銭に換えられない財産の集合体であります。問題はそれを実際にどう分割するかです。誰がどの財産を実際に取得するかは話し合いによらざるを得ません。

遺産分割の方法としては、遺産そのものを分割する現物分割の他、代償分割換価分割共有分割があります。

代償分割

では、相続人の一部がその相続分額を超える財産を取得する代わりに、もらいすぎた分を他の相続人に対し金銭で支払いをします。たとえば、相続人中の誰かが不動産を取得する代わりに、他の相続人に代償金の支払いをするといった具合です。

換価分割

相続財産を売却処分してその代金を分配します。

共有分割

遺産そのものを各相続人の相続分に応じて共有取得することをいいます。

上記のうち、通常は、まず現物分割が可能かを検討します。それが難しい場合には代償分割を検討し、代償分割もできない場合に換価分割を検討します。遺産を共有のまま取得する共有分割は最後の手段だといえます。

7.遺産分割協議書の作成

相続人による、遺産分割についての話し合いがまとまったら、遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書には、とくに決められた形式はありませんが、不備があると不動産の名義変更(相続登記)などの手続きが行えないこともありますから注意が必要です。

遺産分割協議書へは、相続人全員が署名し実印で押印します。合わせて印鑑登録証明書も用意します。

8.不動産産名義変更・有価証券の名義変更手続き

作成した遺産分割協議書の内容にしたがって、預貯金の解約(払い戻し)、株式など有価証券の名義変更、不動産の名義変更(相続登記)などをおこないます。
銀行預金などの解約手続き、株式・投資信託などの名義変更手続き、生命保険金なども合わせて行います。ただし、金融機関への手続きは金融機関所定の用紙への署名押印が要求される場合が多いため、事前に金融機関に対して、遺産分割協議書で足りるのか所定の用紙への記載が必要なのかを確認しておくと二度手間にならないかと思います。